平成29年改正の画地規模の大きい宅地の評価(平成30年1月1日以降相続発生分について施行)では、旧来の広大地評価と比較して適用範囲は広がりましたが、減額幅はかなり小さくなりました。
ここでは、現行の画地規模の大きい宅地の評価と、時価とが逆転して時価<画地規模の大きい宅地の評価による相続税評価額となり得るであろうケースを紹介します。
旧来の広大地評価と、地積規模の大きな宅地の評価の減額幅比較
地積規模の大きな宅地の評価による計算式は以下のとおりです。
評価額=正面相続税路線価×地積×補正率(※1)×規模格差補正率(※2)
※1 形状(不整形、奥行)等を考慮した補正率
※2 面積を考慮した補正率
以下は旧来の広大地評価と現行の地積規模の大きな宅地の評価による、規模格差補正率から見た理論上の最大減額幅の比較です。
地積規模の大きな宅地の評価の規模格差補正率では、広大地補正率と異なり画地補正率は含んではいないので理論値にはなりますが、減額幅がかつての広大地補正率と比較してかなり縮小されていることがお分かりいただけるかと思います。
以上のとおり、地積規模の大きな宅地の減額幅は最大でも30%弱となっており、旧広大地評価と比較して減額幅は半分以下となっています。
地積規模の大きな宅地の評価額が時価を上回る可能性があるケース
上記のとおり、地積規模の大きな宅地では旧広大地評価よりも減額幅がかなり縮小されているため、実際の取引市場で成立するであろう時価が相続税評価額を上回るケースも多くなるであろうと考えられます。
その例を示します。
①高低差の大きな宅地
敷地内に大きな高低差がある部分を有する宅地については、宅地分譲をするに当たっては切土・盛土等の多額の造成費が必要となります。
そのため、地積規模の大きな宅地の評価による減額割合を考えると、造成費による減額の併用を行った場合に相続税評価額>時価となるケースがあるでしょう。
②市街地内の山林
市街地内に所在している宅地利用されていない山林は一般的に面積も大きいケースが多いことから、旧広大地に該当する場合が多くあり、広大地評価の算式によって50%を超える減額幅が認められるケースが多くありました。
しかし、平成29年改正後の地積規模の大きい土地の評価ではこの減額割合が半分以下に縮小されているため、相続税評価額>時価となるケースが発生する可能性があります。
相続税評価から離れて、市街地内の山林を一般の売買によって取得する場合、通常は樹木を伐採して宅地造成工事を行わなければ宅地として利用できませんから、その部分の工事費が土地の価格から引かれます。
土地の価格についても、面積が大きければ開発道路等の潰れ地が必要になってくるでしょうから、そこでも下がるでしょう。
このように考えても、市街地内の山林については地積規模の大きな宅地の評価を行うだけでは、時価と乖離した高い価格が求められてしまうケースが多いものと考えられます。
尚、相続税評価において純然たる山林と認められた場合は山林として評価されますのでこの限りではありません。
③無道路地、前面道路が4m未満の土地等、宅地開発が不可能な土地
無道路地については宅地開発が原則できません。しかし、無道路地でも評価対象地の林地を買収することを前提とすれば広大地評価の適用要件を満たす場合には、かつては広大地評価を適用することが可能で、かなりの評価減がされる制度でした。
しかし、平成29年改正後の地積規模の大きな宅地の評価では上の表のとおり減額割合が相当縮小されるため、相続税評価額>時価となるケースも多くなるでしょう。
また、前面道路幅員について、自治体によっては開発行為をする場合、前面道路の幅員が4m以上なければならない、6m以上なければならない等の規制をかける場合があります。
このような場合、評価対象地の前面道路がこれ未満の場合は宅地開発が不可能である地域に存することとなるので、相応に減価して評価されるべきですが、地積規模の大きな宅地に該当することによる評価額では、相続税評価額>時価となるケースが発生するものと考えられます。
地積規模の大きな宅地の評価額が時価を上回る可能性がある場合の対応
以上のとおり、地積規模の大きな宅地の減額率は旧来の広大地補正率より相当縮小されていますから、税理士の方々が適切に地積規模の大きな宅地の評価算定式を適用したとしても、相続税評価額>実際の取引市場で成立するであろう時価となるケースは増加するであろうと考えられます。
実際、国土交通省の土地取引総合情報システム(URL:http://www.land.mlit.go.jp/webland/)には、所在地の特定は町名までしかできませんが、土地の取引データをダウンロードすることができます。
筆者がこのデータを使って関東某県の土地を規模ごとに集計して平均㎡単価を算出したところ、80~150㎡の標準的な戸建住宅地と思われる規模の土地を100とすると、1,000㎡以上の土地の価値率は55%程度と、地積規模の大きな宅地の評価による減額率を大きく上回っているという例もありました。
このデータは敷地内に高低差がある等といった詳細のデータはわからないものになっていますし、単に規模だけで減額率を立証していくことはやや難しい面がありますが、今後相続税評価額>実際の時価となるケースが増えることはほぼ確実と思われます。
地積規模の大きな宅地に該当する土地を相続開始後にその納税資金のために売却し、その価格が相続税評価額以下である場合や、無道路地である等土地の条件から相続税評価額が時価を上回ることが考えられるような場合、その金額によっては相続税申告を担当する税理士の責任問題にもなりかねません。
そのため、今後は地積規模が大きな宅地については相続税評価額が時価を上回る額になっていないか検証が必要になるでしょう。
その結果、相続税評価額が時価を上回ると思われる場合は、不動産鑑定士による鑑定評価書を添付し、不動産鑑定評価による時価による申告を納税者のために行うべき義務が生じるものと考えられます。
但し、不動産鑑定評価は成功報酬ではなく、鑑定評価書作成の手間に対する報酬といった意味が強く、相続税減額が認められても認められなくてもかかる費用ですから、評価減によってどの程度の相続税減額が見込めるのか、鑑定評価費用を払ってもペイするのかといった費用対効果の検討は必要です。
まとめ
平成29年改正による地積規模の大きな宅地の評価では、適用要件が緩和されて地積規模の大きな宅地となる土地の数はかなり増えたと思われますが、その一方で旧来の広大地評価に比べて減額幅がかなり縮小されています。そのため、相続税評価額が時価を上回っていないかどうかの検証作業が必要となりました。
相続税申告の際、不動産業者の査定書等では税理士の相続税評価に代わる申告書類として認められませんから、不動産鑑定士を活用することを検討しなければならないケースが増加しています。
費用対効果の面から十分と思われる際は、不動産鑑定士の活用を検討した方が良いケースがあるでしょう。