これまでに、不整形地や無道路地、がけ地等の財産評価通達上の評価方法を説明してきましたが、これについての考え方は言い方は悪いですがやや乱暴だなと思っています。
相続税法第22条では、以下のとおり規定されています。
「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況による。」
相続財産は相続発生時点(被相続人が亡くなられた時点)の「時価」によるとしているのですが、財産評価通達の考え方は画一的なものであるため、適切に時価を求める手法になっているのかという疑問です。
不整形地の評価方法について
不整形地、特に路地状部分を含む袋地について、実際の取引価格を調査して調べたところ、特に都市部の商業地の場合は財産評価基本通達によって求めた金額より、ずっと低い取引価格になっているケースがかなり多くみられます。
小規模な店舗が密集している商店街等のケースをイメージしていただくとわかりやすいかと思いますが、袋地については通行しているお客さんから見えにくい、お客さんが入ってきにくい、商品の搬入にも問題が大きい店舗になってしまいます。
やや専門的には「視認性が低い、顧客の利便性が低い、顧客の導入に難がある」等と言いますが、袋地であることを好む店舗はかなり限られます。
政治家や財界人が利用するような有名な料亭であれば「外から見えにくいこと」が一種の利点となることも考えられますが、そういう需要はかなり限られるでしょう。
また、美容室やマッサージ店等のように「あの店のあの人に髪の毛を切ってほしい、体をほぐしてほしい」という、その店舗自体に顧客がついていて歩いている流動客を呼び込む必要があまりない業種であれば成り立つかもしれませんが、それでもその土地に対する需要はかなり限られてくるのが通常です。
財産評価基本通達の考え方で袋地を評価した場合、概ね15%~25%程度の減価率になることが多いのですが、筆者が仕事で都心のある商業地の店舗の取引を集めて整形地と袋地の取引価格の㎡単価を比較してみたところ、平均で整形地と比較して30~50%程度の減価となっているケースもありました。
住宅地であっても、特に東京都では東京都建築安全条例の直近の改正で、袋地は共同住宅は基本的に建てられないということは変更されませんでしたが、改正前までは建築可能だった長屋(廊下等のない、各住戸の玄関を開けたら直接居室である共同住宅の一種)も基本的には建築不可になりました(但し、路地状部分の長さや接面幅にもよります)。
このことから、東京都においては袋地の利用効率はこれまで以上に下がることも考えられます。
このような袋地を不動産鑑定士が評価する場合は、財産評価基本通達の考え方も参考とはしますが、このような取引事例の分析のほか、整形地と比較して建物のレイアウトがどれだけ制限されるのかということも考慮します。
無道路地の評価方法について
財産評価基本通達では、無道路地の評価は建築基準法等で規定されている接道義務を満たすように通路部分を買い増すという前提で行われています。
しかし、実際に前面の土地の所有者にこの通路部分を売ってほしいといったところで、はいそうですかと簡単に売ってくれるでしょうか。
そもそも、相続発生時点までその土地が無道路地であったのは、接道義務を満たすような土地にして有効利用したいと思っても隣の土地の一部を買い取ることができないためとも考えられます。
また、仮に通路部分を売ってくれることになっても、それによって隣の土地の利用効率が下がるのでその部分を補填してほしい等と言われ、交渉の結果路線価の何倍もの価格で買い取らざるを得ないケースもあるでしょう。というよりも、そのようなケースの方が多いと感じています。
その他、私道についても財産評価基本通達では財産価値のあるものとして考えていますが、果たしてその考え方は常に正しいのでしょうか。
その私道が面する土地に住んでいる人たちしか通行できない、いわゆる排他的通行権のあるような私道であればこのような考え方もうなずけますが、一般的にはそのような私道は少ないでしょう。
不動産鑑定士が行う鑑定評価では、私道を廃止して周辺の土地を一体として利用することを前提とする等の特殊な事情がない限り、一般的にはその宅地の評価額の他に、その宅地についている私道について財産価値があるものとは考えません。なぜなら、その宅地の価値に私道の価値が含まれているものと考えるからです。
私道を切り離して評価するのであれば、その宅地は無道路地になってしまいかねません。
地積規模の大きな宅地について
地積規模の大きな宅地とは、その地域で一般的な土地に比較して面積が大きい土地のことを言います。
財産評価基本通達ではかなり大雑把な補正率を設けています。納税者の公平性を重視して相続税の財産評価を画一的に行うという点ではやむを得ない方法だと思いますが、この評価方法で求めた価格は多くの場合で地積規模の大きな宅地を実際に売買する際には使えません。
一般に、取引において地積規模の大きな宅地を購入する人はマンションデベロッパーや建売分譲を行う不動産業者・建築業者です。これらの人はその土地を買ってマンションを建てたり土地を分割して戸建住宅地として整備したりして売った場合、いくらで買えば採算がとれるのかという観点で土地を購入しますから、通常の意味で言えばこの価格が「時価」となります。
不動産鑑定士が地積規模の大きな宅地を評価する場合も、基本的に同じ考え方の鑑定評価手法を適用します。
このような方法で「時価」を求める場合、その土地に適用される法律や条例、開発指導要綱等の各種規制を踏まえた上で開発造成計画を想定することは専門家以外では難しい為に財産評価基本通達では画一的な補正率を設けているものと考えられます。
地積規模の大きな宅地については相続税評価で焦点になりやすいところですし、節税のキーとして大きな分野でもありますので、別記事で十分お話しします。
まとめ
財産評価基本通達は、確かに簡便的・画一的で、納税者の間で不公平が無いようにという理念から言えば優れたものですが、現実の取引市場を踏まえた分析を行ったところ、やや乖離があるなと感じる部分も散見されます。
しかし、実際に土地の評価ができるのは不動産鑑定士だけです。税理士も相続税申告の際、ここまでにお話ししてきたように財産評価基本通達に則って土地の評価を行いますが、それ以外の方法では税理士は土地の評価ができません。
不動産鑑定士に依頼するとなるとそれなりの費用も掛かってきますので、費用対効果を考えた上で税理士とよく打ち合わせて依頼をする必要があります。
例えば、相続財産の内この土地は広いから総額も大きくなる、だから不動産鑑定士に頼もう。この土地は袋地で不動産鑑定士に頼むと財産評価基本通達に則った評価以上に減額できる可能性があるけれど、規模も小さいし節税効果も小さいから報酬を考えるとペイしない、だからこれは税理士の評価で申告しようといったようにです。
実際、土地の評価は税理士でも得意・不得意があるところですから、こういう減額要因があるのではないかということを逆に税理士に提示できるよう、概略だけでも把握しておくことは重要です。