今回この記事では計算式などを用いて少し難しい無道路地、がけ地というやや特殊な土地について、相続税路線価方式の評価方法を詳しく、そして分かりやすくお伝えします。路線価方式における財産評価上、それなりに大きな評価額の減額につながる項目です。思い当たる方は是非参考にしてください。
無道路地とは?
建築基準法では、建物等の敷地は2m以上道路に接面していなければならないとされています。つまり2m以上道路に面していない土地には建物等を建築することができず、土地の利用価値は大きく低下します。
そのため、この点を財産評価において反映させようというものです。こういった無道路地の評価は、土地及び土地の上に存する権利の評価明細書(第1表)のH欄に該当します。
相続税財産評価でいう無道路地には、下の図1のように完全に道路に面していない土地の他、図2のように道路に面してはいてもその部分が2m未満の土地も含みます。
【図1】
【図2】
尚、建築基準法の原則では上記の図のとおり道路に面している部分の長さは2mですが、地方自治体の建築関係条例によって、これ以上の接面長さを指定することもできるようになっています。
そのため、例えば「建物の敷地となる土地は、道路に6m以上接していなければならない」等の条例が施行されている地域については、接面長さが6m未満の土地についても同じ考え方で評価します。
無道路地の評価について
普通住宅地区内の土地を例に、以下の図3を用いて解説します。
【図3】
無道路地の評価は、不整形地のかげ地による評価を準用して行います。
まず最初に、Aの評価対象地は道路に接面していないので、建物等の敷地としての利用はできません。そのため、前の土地の一部を買収し、最低限の接道義務を満たすものとした土地を想定し、道路開設想定部分(B)を図にします。
次に図3で、評価対象地と全面宅地とを合わせた整形地(A+B+C)を想定して路線価に奥行価格補正率を乗じて、想定整形地の仮の価格を求めます。
路線価を100,000円/㎡とすると以下のようになります。
想定整形地の価額=100,000円/㎡×奥行補正率0.97×(A+B+Cの面積)=36,375,000円…①
次にC.前面宅地(他人地)の価格を求めます。尚、Bの道路開設想定部分も他人地ですから、CだけではなくBも面積に加算します。
前面宅地部分の価額=100,000円/㎡×奥行補正率1.00×(B+Cの面積)=15,000,000円…②
次に、①想定整形地の価額から、②前面宅地の価額を控除して、対象地の不整形補正前の価格を求めます。
①-②=対象地の不整形補正前の価額21,375,000円(㎡単価は95,000円/㎡)…③
ここまできたら、もう一度図3のA評価対象地と、B道路開設想定部分を今度は一体としてみてください。
Aが、Bの部分を買収することで接道義務を満たし、建物の敷地等として利用できる土地になるわけですが、A+Bは不整形地です。不整形地ですから、かげ地割合による補正率を計算して形状の減価を考慮する必要があります。
この例ではかげ地割合は{(A+B+C)-A}÷(A+B+C)で求められますから、{(225+20+130)-225}÷(225+20+130)≒40.00%
財産評価の付表5、不整形地補正率表の普通住宅地区より、かげ地割合による仮の不整形地補正率は0.85となります。
更にA+Bは2mしか間口がありませんから、間口狭小補正率0.90を乗じて、不整形の補正率は以下のとおり求められます。
かげ地割合による補正0.85×間口狭小0.90≒0.77…④
更に、対象地の現状による形状から、次の補正を求めます。
間口狭小0.90×奥行長大0.90=0.81…⑤
④と⑤を比較して、小さい方が採用する補正率となります。
したがって、不整形地としての価格は以下のとおりとなります。
21,375,000円×0.77=16,458,750円…⑥
更に、図3のBの部分は、前面宅地の所有者から分けてもらって購入しなければ実際に接道義務を満たし建物が建てられる土地にはなりませんから、B道路開設想定部分の土地の購入することを想定します。
ここで、道路開設想定部分も間口2m、奥行10mですが、この部分に関してだけは間口狭小等の各種補正を考えずに計算します。なぜかというと、前面宅地の所有者は自分の土地を削られるのに、間口狭小等の各種補正を考慮した低い価格で買うことは公平ではないと財産評価基準は考えているからです。
B単独の価格 100,000円/㎡×20㎡=2,000,000円…⑦
これを、不整形地補正後の対象地の価格⑥から差し引いて、無道路地としての価格が算出されます。
無道路地としての価格=⑥-⑦=14,458,750円(64,261円/㎡)
この例では、単純に前面道路に路線価をかけた価格、100,000円/㎡×225㎡=22,500,000円の、実に約36%低い価格が算出される結果となっています。
無道路地の減価はかなり大きな評価減につながりますので、見落としが無いようにしましょう。
がけ地の評価について
がけ地とは、名前通りがけ(急斜面地)を含んだ土地のことです。がけ地については、急斜面であってもその方位によって格差がついています(財産評価基準、付表8)。
これは、例えば日当たりが良く樹木や場合によっては作物等の生育の格差があることや、土地の一部ががけ地、残りは平坦で建物の敷地としても利用しやすいような場合、南にがけがある場合は日当たりが確保される等を考慮して格差がつけられています。
がけ地の補正率は、
A.(土地全体に対するがけ地部分の面積割合に応じたがけ地補正率×がけ地地積の総和)÷B評価対象地の全面積
の式で求めます。
仮に評価対象地の南側、西側それぞれにがけ地があるような場合は、Aの式を南側のがけ地部分+西側のがけ地部分のように、それぞれ加えていくことになります。
無道路地/がけ地の評価。接道義務などを事例や図を用いて解説します。まとめ
やや特殊な土地である、無道路地、がけ地についての財産評価基準上の考え方をお話ししました。
無道路地については不整形地と並んでかなり複雑な計算をするわけですが、図3の例では評価通達の考え方では約36%の無道路地による減価でした。
しかし、個人的には無道路地は建物の敷地として利用できず、駐車場とするにも車が入ってくる場所がないこと、資材置場としても搬入が難しいことから、この程度の減価率ではないのではないかと考えています。
ただし、財産評価基準に則った評価を行った場合は価格が高すぎるので、適正な時価による相続税申告をしたいとなった場合は不動産鑑定評価書を添付することが必要になります。
不動産鑑定士に支払う報酬は1土地当たり少なくとも20万円~30万円(単純な土地での最低ラインで、これ以上かかることもあります)となりますから、費用対効果の面で相続の対象となる無道路地があまり規模の大きくない土地であれば、財産評価基準による評価で済ませた方が結局は得な場合もあります。
その点を良くお判りいただきたいため、無道路地やがけ地の評価の基本をお話ししました。