相当の地代とは?借地権の判例と共にプロが詳しく解説します

何度もお話ししている通り、借地権があると認められると相続税申告の際の底地の評価額は更地に比較して低くなります。分かりやすく式にすると以下の通り。

底地の評価額=更地(自用地)としての価格×(1-借地権割合)

借地権の有無の判断の際は、借地権設定の対価として権利金が払われているかどうか、そうでなければ「相当の地代」が支払われているかどうか、という2つの点が問題となります。

目次

借地権の判例紹介

今回ご紹介する国税不服審判所の裁決となった判例の詳細は以下の通りです。

納税者である相続人の認識として、相続によって土地を取得したが、本件土地は賃貸中であり、貸宅地。そのため、相続税申告の際の評価額は財産評価基本通達に基づき、相続税路線価図に記載されている借地権割合を控除した割合を更地の価格に乗じてその土地の相続税評価額を算定し申告しました。

仮に借地権割合が60%の地域であったとすると、相続税評価額=更地としての価格×(1-60%)として算出して申告したということになります。また、相続人の認識としては事案の借地権の設定当時、契約当事者間で権利金の授受はなく、それに替えて相当な地代を払っていたという認識です。

国税庁の判断は?

その一方、担当国税庁は本件土地は相当の地代を授受している貸宅地であるから、「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取り扱いについて」の、相当の地代を収受している場合の貸宅地の評価(以下、「相当地代通達」と言います)によることが相当であると判断しました。

尚、相当地代通達の考え方によると、相当の地代が収受されている場合の借地権の価額は0円とされています。しかし、財産評価基本通達では、貸主は借地借家法の制約を受けるため契約期間中は自ら使用できないという事情があるので、これを考慮して自用地の価格の80%として評価することを認めています。

つまり、本件では土地の評価について、更地価格に借地権割合を控除した割合を乗じるのか(仮の例では40%)、自用地の価格の80%を乗じるのかで相続人と国税庁の意見が分かれています。

権利金と借地権の価額との関係

権利金の取り扱いは実際の上でも微妙な問題を含みますが、一般的に地主が借地権を設定し、借地人が経済的に相当の価値を有する借地権を取得したと考えるべき状況は数多くあります。

借地権付建物を借地人が売りたい場合、地主の許可を得られなくても裁判所が代わりに許可をすれば売却できるということも法律上認められています。(裁判所の代諾許可と言います)

借地人から地主への権利金の支払いは実際は必ず払わなければいけないものではありませんが、このように地主がその土地を利用できないという制約や、自分が許可しなくても借地権を売買されてしまう可能性等を受け入れたことに対する謝礼等の意味で、借地権の設定に当たっては権利金の授受が行われる場合があります。

このように権利金の授受の慣行がある地域において、権利金の支払いなしに借地権を取得した場合、借地権を取得したのが法人であるならば、その権利金に相当する額が受贈益と判定されて益金の金額とされ、法人税が課税されることになります(法人税法第22条2項に規定する「権利金相当額の認定課税」)。

しかし、法人税法施行令の第137条は、権利金を授受しなかった場合であってもその土地の使用の対価として相当の地代を収受するときは、その取引を正常取引であると見ています。

その場合、借地人への経済的価値の移転がないものとして権利金相当額の認定課税をしないよう規定しています。借地人が個人であった場合、同様の規定は相当地代通達で定められています。

まとめると、「相当な権利金の支払いがある場合、相続税評価の底地の評価においては、更地の価格から借地権割合を控除することは認められない」ということになります。

相当の地代が支払われている場合の底地の評価

借地人が個人の場合、相当地代が払われていれば借地人には借地権の設定による利益はないものとして取り扱われています。そして、借地権が設定されている土地について、権利金を支払うことなく相当の地代を支払っている場合の借地権の価額はゼロとして評価する旨が規定されています。

しかし、このような場合でもその土地の自用地としての価額の80%に相当する金額により評価する旨を定めています。控除すべき借地権の価額がない土地といえども、借地借家法による制約を受けること等がその理由です。

今回の借地権の判例から見る留意点

以上の2点をみると、借地権の設定に当たって権利金の授受がなく、相当の地代を支払っている場合において底地の評価額は更地(自用地)と同じになります。

地主は土地を貸しておりその土地を自分の自由に利用できないとはいっても、適正な地代を得ているのであるからその土地を十分に有効活用することはできており、その実態において自分で利用しているのと経済的には変わらないという考え方が基礎にあります

相当の地代が支払われている場合は、借地人に対する経済的価値の移転は実体的にはなく経済的価値の対価は地主に対して地代の形で報われている、だから経済的な実態を見ると地主にとって自用地と変わらないという考え方です。

そのため、この場合は底地の評価にあたって控除される借地権割合はないということになります。不動産鑑定評価上の考え方で言うと、理論的には借地人が持っている借地権の価値というのは「相当の地代」と「実際に契約に基づいて地主に支払っている地代」の差額、いわゆる借り得部分から成り立つものです。

相続税評価上も借地人に借り得部分がなければ借地権の価値もないのであるから、底地の価値は自用地の価値と同じであるとした考え方とも言えます。

以上から疑問点。相当の地代とはどのような金額?

では、「相当の地代」とはいったいどの程度かという問題が生じます。国税庁ホームページ「タックスアンサー」にこの回答が示されています。

「相当の地代」とは、原則としてその土地の更地価格の概ね年6%程度とされています。更地価格が1千万円であったら、地代の年額が1千万円×6%=60万円を目安としてこの程度以上の金額が支払われていれば、相当の地代の収受有りと判定され、底地の評価にあたって借地権割合の控除は認められない可能性が高いということです。

尚、ここでいうその土地の更地価格はその土地の時価を言い、次のいずれかで評価した価格で良いとされています。

  • その土地の近くにある類似した土地の公示価格等から合理的に計算した価額
  • その土地の相続税評価額
  • その土地の相続税評価額の過去3年間の平均

逆に言えば、これ以下の地代しか払われていない、かつ権利金の授受もないということであれば相続税評価において、底地の評価は更地価格×(1-借地権割合)として良いということになります

筆者の実務経験から言うと、おおむね収受されている地代額は年額で土地の更地価格の1~2%も行けば良い方だという感覚はありますからほとんどの土地は問題なく借地権割合を控除できると感じています。

但し地方圏では地価水準が低い分、更地価格に対する地代額の割合が高くなる傾向が強いですから、この点は十分注意してください。

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この記事を書いた人

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