吉本興業が2015年9月にその資本金を125億円から1億円へと減資しました。同社によると、当該減資の理由は取り崩した資本金を中長期的な投資に回すための財務戦略で、税制優遇が一番の目的ではない、と報道されています。
もちろん同社にはその時点で140億円の利益剰余金のマイナスがあり、減資後のそのマイナスを補填できるといった効果も見込めるのですが、とかく所得の発生していない大法人では資本金の金額を1億円以下にすることは非常に有効な節税手法となります。
それでは、なぜ資本金を減らすことが節税となるのでしょうか。
まずその一つとしてあげられるのが地方税の外形標準課税が課さられなくことだと思われます。
外形標準課税とは、会社の資本金や給与・賃料の金額等、客観的に判断できる基準で税額を算定する地方税を言います。資本金が1億円を超える企業は、赤字であろうと黒字であろうと外形標準課税を支払う義務が生じます。
減資前の同社は資本金が125億円とされていたのでざっくりですが数億円単位の外形標準課税を支払っていたと思われますが、この減資により外形標準課税が課されることはなくなり、結果的に大きな節税となっています。
また、外形標準以外でも資本金1億円以下の法人となった場合には、一定の金額までは法人税の税率が低くなったり交際費の控除額が増加したりと様々な特典を受けることが可能となります。
ところが同じようにシャープが資本金を1億円への減資を実施しようとした際には、各方面から非常に大きな批判が生じてシャープは結局減資後の資本金を5億円とせざるを得ませんでした。当時のシャープの資本金は約1,200億円でした。
実は吉本興業とシャープの実施した減資の目的自体は財務体質の改善であったり、おそらく節税であったりと大差はないように思われます。またいずれも法律に従って行った行為であり違法な行為は一切行っていません。
ただ今回は、シャープのみが大きな批判を受け計画の中止をせざるを得ませんでした。おそらく、上場/非上場の違い、従業員数の違い、売上高の違いや減資前の資本金の違い等様々な要因があったかとは思います。
ちなみに有名な企業で言えば例えばヨドバシカメラなどもその売上規模と比較して資本金は1億円以下になっています。
今は少し下火になっているかと思いますが、これらの行為を受けて一時期は外形標準課税の課税対象について中小企業への拡大も盛んに議論されていました。幸いに、実現には至りませんでしたが、外形標準課税は、このように資本金の金額という基準だけで課税額が大きく異なるような制度であるため、比較的簡単に節税を行うことができる制度でもあり再度この課税範囲の拡大が議論の俎上にあがってもおかしくないと思われます。
ちなみに現状の外形標準課税は企業が支払う賃料や人件費等を基礎に計算される部分もありますので、将来の増税に備えるのであれば、例えば賃料等に関しては、最小限にするなどいまのうちから準備をしておくことも必要かもしれません。