減価償却については別記事で説明しています。
ここでは減価償却の節税効果についてちょっと踏み込んで解説します。
減価償却の仕組み
別記事のおさらいになりますが、減価償却とは、不動産(不動産は建物のみが減価償却が認められます)のような価格が大きく、長い年数使うことを前提とした固定資産の取得費用を数年間にわたって費用計上していく仕組みのことです。
例えば建物購入金額が1千万円、耐用年数が残り5年の場合、購入した年度の会計処理で1千万円全てを費用として計上するわけではなく、今後5年間にわたり1千万円÷5年=200万円をそれぞれの年の費用として計上するのが減価償却処理です。
この減価償却が節税に効果があるのは、「減価償却費は実際にはお金は支出として出て行かないものだけれど、税務上は経費として計上して利益を圧縮できる費用である」点にあります。
例えば年間所得2千万円の経営者が2億円(土地1億円、建物1億円とします)の投資用不動産を買ったとしましょう。
賃料収入が年間2千万円、建物の減価償却期間を10年(1年あたりの減価償却費は1千万円)とした場合のモデルは以下のとおりです。
ちょっと極端な例としましたが、減価償却費を考慮しない場合は④の税引き前利益が毎年6百万円出ています。毎年6百万円の利益が出ればこれに税金が課税されますが、⑤の減価償却費が考慮されることによって会計上の税引前利益は4百万円の赤字になっています。
その一方、減価償却は実際にはお金が出て行かない費用ですから、手元に残るお金としては⑦のとおり、毎年1千6百万円という計算になります。
上の例では単純に理解していただくためにローン金利(ローンは元金返済分は経費計上できませんが、金利返済分は経費として計上できます)等は考慮外としましたが、これも考えると⑥の税引前利益はもう少し赤字が増えるでしょう。
つまり、⑦の実際のキャッシュフロー欄は黒字でも、会計処理上は赤字とすることができるわけです。そして、上の例の⑥欄の会計上の赤字は、法人であっても個人であっても他の所得と損益通算することができます。
つまり、本業の所得に加減できますから、本業の所得が減ってその分も節税できるということになります。
上の例では不動産収入以外の年間所得が2千万円ありますから、2千万円+⑥税引き前利益-4百万円=1千6百万円まで本業の黒字を減らすことができ、所得税や法人税対策になるわけです。
売却時に課税を繰り延べているだけではという疑問
減価償却は課税を繰り延べているだけで、長期的に見た場合は差し引きゼロで節税にはならないのではないかという考え方もあります。
例えば上の例で減価償却を行っていった場合、建物の帳簿価格は以下のとおり減少していきます。
物件を売却した場合、売却金額から簿価及び売却に要する費用(仲介料等)を控除したものが利益ですから、これに対して課税されることになります。簡単に式で表すと、「売却金額-(簿価+売却費用)=利益」です。
簿価は、上の表のとおり取得価格から毎年の減価償却費を控除していったその残額です。
上の例では当初土地1億円、建物1億円の総額2億円で物件を購入していますから、5年目に2億円で物件が売れた場合は「土地価格1億円+建物帳簿価格5千万円=1億5千万円」が簿価となります。
つまり、「売却金額2億円-(簿価1億5千万円+売却費用)=利益」となるわけです。
減価償却費分簿価が減少していることで、売却時の利益が大きくなるため、売却時に大きく課税されるという結果になります。
このことを「減価償却は課税を繰り延べている処理である」と言います。
減価償却の理解には現在価値(複利計算)の考え方が必要
上のように考えると結局保有期間を通算してみれば払う税額は同じであるから減価償却は税金対策にならないという結論になるかもしれません。しかしそれは早計です。ちょっと理屈っぽい話になりますがお付き合いください。
重要なのは減価償却により税金を一時的に減らして先送りしている効果と、売却時の戦略を考えることです。
トータルで納める税額は同じとしても、減価償却を使って税金の支払いを先送りにすることで手元に現金を残すことができるからです。
法人の経営という観点から言えば、手元に今すぐ使える現金が多ければ運用することができますから、十分なメリットが生まれます。
経済学的な考え方ですが、今現在の1千万円と、10年後の1千万円は価値が違います。例えば今現在1千万円が手元にあり、年利5%の金融商品等で運用できるとすると、この1千万円は複利計算で10年後には1千万円×(1+5%)10≒16,288,946円になります。
逆に、年利5%の利回りで運用できるとした場合、10年後の1千万円を現在の価値に引き直すと、1千万円÷(1+5%)10≒6,139,133円にしかなりません。
直感的に考えていただいても、今現金1千万円が手元にあれば、本業の運転資金に投入することも別の投資に投入することもできますが、5年後にしか1千万円が手に入らないのに今同じ額が必要であれば借り入れを起こすか手元資金を崩すかしなければならないでしょう。
上で行ったような考え方を複利終価率、複利現価率と言います。
複利終価は「現在の元金」を年利r%で運用した場合のn年後の価値で、元金×(1+r)nで求められます。(1+r)nが複利終価率です。
複利現価は、年利r%で運用できる場合「のn年後の元金」は現在の価値に直すといくらかという概念です。
上の複利終価率の逆数が複利現価率ですから、元金×1/(1+r)nで表されます。1/(1+r)nが複利現価率です。
法人の場合減価償却により経営安定効果が得られる
法人の実際の収益物件の運用では、キャッシュフローを得ながら減価償却で課税を先送りにしておき、本業税所得が赤字の年にぶつけて相殺するか、又は減価償却が終わったタイミングで別の物件を追加購入して更に課税を先送りにするといった方法があります。
本業税所得が赤字の年に物件を売却すると、不動産売却利益の計算式「売却金額-(簿価+売却費用)=利益」において減価償却で簿価が低くなっていた場合でも、売却利益を本業赤字と通算できるため売却益を圧縮できます。
不動産投資の優れた点は、売却時期を任意に決められることにあります。
このように減価償却による課税の繰延べと適切な時期の売却で利益を圧縮することにより、税金をコントロールして経営を安定させることができるのです。
他の節税方法であるリース取引等では売却時期を任意に決めることはできません。
この点が不動産投資の優れた点と言えます。
纏め
- 減価償却は物件取得費用(建物のみ)を各年に配分する手続きで、実際にお金は出て行かない
- 減価償却により得られる効果を理解するためには複利計算の基本を知る
- 不動産投資は物件売却時期を自由に決められる点が節税の観点から優れている
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