今回は、これまで行われていた不動産の「中間省略登記」と近時それと同様の目的を実現することができるとして注目されている「新・中間省略登記」をテーマとして取り上げます。
中間省略登記とは?
中間省略登記とは、不動産についてA→B→Cの流れで不動産が売買される場合、所有権はA→B→Cと順次移転しているにもかかわらず、中間者Bへの移転登記を省略して、AからCへ直接所有権が移転したこととする登記のことをいいます。
中間省略登記は、A→B、B→Cとの移転登記をすれば、登録免許税が登記2回分必要になるところを、1回で済ますことができるとのメリットがあります。
これは正確な物権変動を登記簿に反映していないということで、判決で命じられるような場合を除きすることができません。(現在でもこのような中間省略登記はできません。)
新・中間省略登記とは?
AB間およびBC間で売買契約を締結し、所有権はA→Cへ直接移転をする方法で、平成19年の宅建業法の改正により、他人物売買が認められることとなったため、不動産業者(B)の方でも、第二の契約ができるようになりました。
第三者のためにする売買契約の手法を用いる登記
「第三者のためにする契約」とは、AとBとの間で締結される、第三者であるCに直接権利を取得させることを内容とする契約です。
具体的には、次のステップになります。
第三者のためにする売買契約の手法を用いる登記
- AB間で「Bは代金完済までに所有権の移転先を指定し、AはBの指定する者に所有権を直接移転する」との特約付きで売買契約を締結する。
- この特約に従い、Bが所有権移転先としてCを指定する。
- Cが、Aに対して受益の意思表示(「所有権の移転を受ける」との意思表示)を行う。
- BがAに対して売買代金全額を支払う。
上記①~④を登記原因証明情報に記載することによりAからCへの所有権移転登記が可能となります。
かかる手法をとる場合には、BC間で他人物の売買契約を締結して、Cが代金の支払を約束することが一般的には行われます。
Bが宅地建物取引業者(宅建業者)の場合、宅建業者の他人物売買を禁止している宅地建物取引業法33条の2に違反するのではないかとの問題もありましたが、同法施行規則の改正により、第三者のためにする売買契約の手法を用いる場合には、宅建業者による他人物売買も可能であることが明記されるに至っています。
買主の地位の譲渡の手法を用いる登記
「買主の地位の譲渡」とは、売買契約における買主の地位を譲渡することです。
「買主の地位の譲渡契約」は、A、B、Cの三当事者による三面契約、または、BC間の地位譲渡契約とAの同意により可能となります。
具体的には、次のステップになります。
買主の地位の譲渡の手法を用いる登記
- AB間で売買契約を締結する。
- BC間で①の売買契約の買主たる地位をBからCへ譲渡する契約を締結する。
- 2の「買主たる地位の譲渡」についてAの同意を得る。
- CがAに代金の全額を支払う。
上記①~④を登記原因証明情報に記載することによりAからCへの所有権移転登記が可能となります。
新・中間省略登記のメリット
新・中間省略登記とは、節税効果、取引当事者の利益、及び不動産市場の活性化などのメリットを実現させることができる、新たに認められた契約形態を言います。
不動産売買において、節税対策による流通コスト削減を図ることは、様々な意味で有益と言えます。その点において、上記は新・中間省略登記は節税が可能な手段として注目を浴びております。
新・中間省略登記は、高い節税効果による流通コスト削減によって取引当事者が経済的利益を享受し、ひいては不動産市場が活性化するというプラスの連鎖が働きます。
どの程度の効果があるのか具体例で説明していきます。
以下では、新・中間省略登記の契約方法である「第三者のためにする売買契約の手法を用いる登記」で説明しています。
戸建住宅の売買の場合
例えば、次のケースで新・中間省略登記で物件を取得した場合を想定します。
- 底地、建物の評価額:各2,000万円
- 登録免許税:60万円
- 不動産取得税:24万円
新・中間省略登記を使う最大のメリットは前述のように節税が期待できることです。
上図のように、業者Bが新・中間省略登記によって受ける節税効果は登録免許税・不動産取得税併せて約84万円となります。
そして、このメリットを享受できるのは中間者のBだけではありません。
中間者のBが節税を可能とし、流通コストを抑えることにより、最終取得者であるCの買受価額も低下させることができるというメリットがあります。そしてこのことが、不動産市場の活性化につながることになるのです。
商業用ビルの売買の場合
次に、商業用ビルの場合でも考えてみます。
- 商業用の評価額:1億円(底地は1億円)
- 登録免許税:300万円
- 不動産取得税:700万円
登録免許税・不動産取得税は評価額が課税標準価格となりますので、対象物件の評価額が高くなればなるほど節税効果は計り知れないものとなります。
不動産の中には何十億円と評価されているものもありますので、そのような物件について新・中間省略登記を使った場合の中間者Bの節税可能額は上記のように莫大な金額となります。
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