【住宅地】不動産鑑定士から見た不動産の売り時について

今回は不動産鑑定士に寄稿頂き、不動産の売り時について考察頂いた記事をアップ致します。

かなり内容が濃く読み応えがあります。

不動産投資においては、物件購入後、保有期間中の賃料収入(インカムゲイン)の他、売却利益(キャピタルゲイン)が主な収入になります。

現代は昭和の高度成長期のように右肩上がりで地価が上がっていく時代ではありませんし、例えば都心部では地価が上昇しているのに、地方は人口の大都市圏への集中によって地価が下がっているというような地域による格差も大きくなっています。

そのため、一概に売却にはここが得です、ということは中々言えないのですが、大まかにこのような動きがあれば売り時であろうという兆候などをお話しします。

ここでは、住宅地の売り時と言える兆候についてお話しします。

尚、ある特定の地域にだけ影響を与えるような再開発や鉄道の新駅の新設(一般的にその周辺の地価は上昇します)というような特殊要因、建物の管理状態や保存状態の良し悪し等の個別性は煩雑になるため考慮外として、土地価格の一般的な傾向についてお話しします。

目次

住宅地の価格形成の特徴

不動産を含めて物の価値は、需要と供給のバランスによって決まります。

その不動産を欲しいと思う人が多ければ多いほど、また供給が少なければ少ないほどその不動産の価格は上がるのが一般的です。

では、住宅地においてはどのようなメカニズムで価格が形成されているのでしょうか。

住宅地の主な需要者は、居住目的の個人ですから、住宅地の価格に影響を与える要因の大まかなものは以下のとおりです。

  1. 最寄り駅等交通機関からの距離
  2. 住環境
  3. その地域の品等(知名度・ブランド力等)
  4. 画地規模

このうち、①や②は一般的なことですから簡単にイメージを持っていただけると思います。

③については東京都で言えば渋谷区松濤、目黒区青葉台、大田区田園調布等の全国的に有名ないわゆる高級住宅地のことで、一言で言えば「そこに住んでいること自体がステータスになる」といったイメージを持っていただけば良いでしょう。

④の画地規模は意外と見落としがちですが重要な点です。

画地規模というのは一区画当たりの土地の面積のことです。一区画当たりの面積が大きく、また土地の形もきれいな区画が並んでいれば、一般的に住環境も良好な住宅地でしょう。

その一方で、一区画当たりの面積が大きければ取引総額が大きくなりますので、いくら㎡、坪当りの単価が安くても買うことができる人はやや限られてきます。

簡単に言うと、単価でみると同じ10万円/㎡の土地でも、平均的な画地規模が(1)100㎡の地域と(2)300㎡の地域では、

  1. 10万円×100㎡=1千万円
  2. 10万円×300㎡=3千万円

というように、買主から見た価格は2千万円もの差が出てきます。

そうすると、景気の悪いときはどうしても不動産購入に出せるお金は少なくなりますから、(2)の画地規模の大きい地域の方では買主から「もう少し価格を下げてほしい」という要請が多く出るようになり、単価でみても総額で見ても値下がりしやすいという特徴を持つ傾向があります。

尚、このようなことを「景気感応度が高い地域」等と言うことがあります。

不動産業者の言う相場観は「あの地域なら大体坪いくらですよ」というように、あくまで「単価」であることが多いですが、ぜひ総額で大体どれくらいが相場なのか、土地の面積は大体どの程度なのかということにも留意しておきましょう。

尚、戸建住宅地でもその地域における平均的な土地の面積が100㎡の地域の中にある、面積1,000㎡の土地等のことを考えると、そのような土地は戸建住宅用地というよりも区画割り後分割した方が良い土地、マンションを建てたほうが価値が上がる土地といったように、用途が変わる可能性がありますが、おおよその価格の変動傾向(絶対値ではありません)は以下で述べるような点が当てはまる場合が多いです。

ランクごとの住宅地の価格変動の特徴

住宅地は商業地や工業地に比較すると取引件数も多いですから、相場観が形成されやすいものでもあります。

大まかに住宅地は、価格水準毎に以下のようなランク分けができます。

A 高級住宅地域(価格水準:高)

周辺地域で最も価格水準が高く、また一画地当たりの面積も大きく、住環境が良好な住宅地です。

B 標準住宅地域(価格水準:中)

周辺地域で一般的な住宅地域です。
価格水準が中程度で、一画地当たりの面積も交友住宅地域ほど大きくはない場合が多いでしょう。

C 混在住宅地域(価格水準:低)

戸建住宅と小規模工場・作業所等が混在しているような地域です。
住環境がA、Bに比べるとやや劣る地域であるため、一般的に価格は低位でしょう。

さて、不動産の価格は需要と供給で決まりますが、大まかにこのようにランク分けされる住宅地の価格は、一般的にどのように変動するかは買主の気持ちになってみると分かります。

一般的に、住宅地を買おうとする買主はできる限り住環境が良く、住み心地が良く、広い家を欲しいと思います。

そのため、まずはAの高級住宅地域から検討を始めます。

高級住宅地域の中で納得できる物件があり、予算も折り合えば購入を決めるでしょう。

しかし、高級住宅地域の中で理想には合っているけれど、高くて買えないということになればどうするでしょうか。

通常はBの標準住宅地域に価格のランクを下げ、その中でできる限り希望を満たす物件を探すということになります。

標準住宅地域の中で予算が折り合えば、多少理想と異なっても妥協できる物件を購入することになります。

買主はBの標準住宅地域の中でも予算が折り合わなければ、Cの混在住宅地域を検討する、というように行動します。

つまり、買主が住宅地の購入を考える場合は、「取引総額や単価から見た価格水準が高い方から低い方へ順番に検討する」のが一般的です。

住宅地の売り時の兆候について

このような買主の行動を、今度は売主の側から見てみましょう。

一般的に買主は価格水準の高い住宅地から低い住宅地の順で検討するわけですから、景気が良くなって地価が上昇し始めた時、最初にその兆候が表れるのはAの高級住宅地です。

場合によっては取引相場が一年で10%以上上がったというようなことも珍しいことではありません。

そして、買主の検討優先度が最も高い高級住宅地に需要が集中した結果、高級住宅地の価格が上がりきってもう帰る人が少なくなってしまうと、今度はBの標準住宅地が検討のテーブルにたくさん乗るということになります。

そうすると、次は標準住宅地の需要が高まり価格が上がっていくでしょう。標準住宅地の価格が上がりきると、今度は価格水準がより低いC混在住宅地の需要が高まる、というようなプロセスが一般的です。

価格の上がる順はA高級住宅地→B標準住宅地→C混在住宅地の順というパターンが一般的ということです。

尚、これは表裏一体で価格の下がるときも順番が同じ場合が多いです。

この理由は、住宅地を購入する際はローンを組むのが一般的ですが、高級住宅地はローンの返済額も多額になるため、景気が悪くなり返済が難しくなると真っ先に売りに出される傾向が強いためです。

先に「景気感応度が高い」という言い方をしましたが、住宅地の場合、価格の変動はこの景気感応度が高い順に現れる傾向が強いのです。

そのため、住宅地を売却する際はご自分がお持ちの土地やその周辺地域の価格水準だけではなく、それより価格水準や取引総額が高い地域の価格の動きはどうなっているのか、ということに留意しておくことが良いでしょう。

ご自分の土地より価格水準が高い地域の価格が上がって更に取引件数が少なくなってきた、つまり価格が上がり過ぎて買うことができる人が少なくなってきたという兆候を見逃さないことです。

そうすると、買主が次に検討するであろうご自分の土地の価格も上がるのではないか、という推定ができます。

このように、住宅地を売却する際は不動産業者とこまめに情報交換するなどして、自分の土地以外の地域の値動きはどうなのかということにもアンテナを張っておくと良いでしょう。

【住宅地の景気感応度と値動きの一般的傾向】

区分特徴買主の優先度景気感応度一般的な価格変動傾向
高級住宅地域画地規模が大きく住環境が良好   価格水準・取引価格は高い早い
標準住宅地域その地域の標準的な住宅地域   価格水準は中程度中程度
混在住宅地域住宅の他、工場や作業所等が見られる地域   価格水準は低位遅い

まとめ

  • 住宅地は基本的に価格水準・取引総額の高い地域から低い地域の順に価格が変動する傾向がある。
  • 不動産業者のいう「坪単価」での相場観だけではなく、「取引総額」から見た相場観にも留意しておくべき。
  • 住宅地を売却する際には買主がどのような優先順位で物件を検討するのかに留意しておくことが重要。
  • 一般的に、地価が上昇している局面における住宅地の売り時は、「自分の土地よりも価格水準が高い住宅地域の取引価格が上がりきって取引件数が少なくなり始めた後」の場合が多い。
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